ゴミ屋敷という環境下において、火を使って料理をすることは、時に自分自身や近隣住民の命を奪う大惨事を招く引き金となります。通常の住宅であれば、ガスコンロの周囲には一定の空間が確保されていますが、ゴミ屋敷ではコンロのすぐそば、あるいは排気口の真上にまで紙類やプラスチック、衣類が山積みになっていることが珍しくありません。このような状況で点火すれば、炎が周囲のゴミに引火する「着衣着火」ならぬ「ゴミ着火」のリスクが飛躍的に高まります。また、長年の油汚れが層をなして固着した換気扇や壁面は、ひとたび火がつけば燃料として機能し、瞬く間に火災を拡大させる「フラッシュオーバー」の原因となります。さらに恐ろしいのは、ゴミの山によって足元が不安定なため、調理中に躓いて鍋をひっくり返したり、コンロに寄りかかってしまったりする事故が起きやすい点です。ゴミ屋敷の住人は、こうした危険性を過小評価する傾向にありますが、消防関係者の間では、ゴミ屋敷での火災は最も消火が困難で、救助活動を阻害する「最悪の現場」として知られています。料理をするという当たり前の日常行為が、ゴミ屋敷という特殊な空間においては、時限爆弾のスイッチを押すような危うい行為に変わってしまうのです。また、電気系統のトラブルも無視できません。ゴミの中に埋もれたコンセントにホコリが溜まり、料理中に発生する湿気と結びつくことで発生するトラッキング現象は、火を使っていなくても火災を引き起こします。ゴミ屋敷から脱却するためには、まず「火を使わない」決断をすることも一つの勇気です。部屋が片付くまではカセットコンロの使用も控え、安全な方法で食事を摂る。そして、清掃業者の力を借りて、コンロ周辺の安全な空間を物理的に確保し、蓄積された油汚れを完全に除去しなければなりません。料理を安全に楽しめる環境を取り戻すことは、自分の命を守ることと同義です。ピカピカに磨き上げられ、周囲に何もないコンロの前に立ったとき、初めて住人は「安心」という名の最高のスパイスを手に入れることができるのです。火災の恐怖から解放されたキッチンで、心ゆくまで料理を楽しめるようになること。それが、ゴミ屋敷再生の大きな目標の一つとなるべきです。