不動産取引や管理の現場において、ゴミ屋敷という直接的な表現は避けられ、独特の隠語や専門的なニュアンスを含む言葉で表現されることが多々あります。これは、物件の資産価値を著しく損なうという実害がある一方で、住人のプライバシーや心理的な瑕疵(かし)に関わるデリケートな問題が含まれているためです。例えば、業者間では「残置物過多(ざんちぶつかた)」という言葉が使われます。これは一見、前の住人が物を置いていっただけの状態を指すように聞こえますが、その実態は、トラック数台分もの廃棄物が床を埋め尽くしている、いわゆるゴミ屋敷の状態を指すことが少なくありません。また、管理会社の間では「生活実態の混乱」という婉曲的な表現が使われることもあります。これは、部屋の中が荒れているだけでなく、家賃の滞納や騒音、異臭トラブルなどが複合的に発生していることを示唆する重い言葉です。さらに、売買の場では「要スケルトンリフォーム(要全解体)」という表現の裏に、ゴミの腐敗による床材や基礎へのダメージが隠されていることもあります。ゴミ屋敷という表現を避ける背景には、それが「心理的瑕疵」として扱われ、事故物件に近い扱いを受けることへの警戒感があります。しかし、現場の担当者たちが直面する現実は、言葉の穏やかさとは裏腹に極めて過酷です。扉を開けた瞬間に鼻を突くアンモニア臭、害虫の発生、そして湿気で腐食した建材。これらの惨状を、どのようにオブラートに包んで契約書に記載するか、あるいはどのようにしてオーナーに伝えるか。そこに不動産業界の苦悩が凝縮されています。近年では、こうした物件を専門に扱う「訳あり物件」の専門業者も増えており、彼らはゴミ屋敷を「再生のポテンシャルを持つ空間」という極めてポジティブな表現で再定義し、清掃とリノベーションを経て価値を蘇らせるビジネスモデルを構築しています。ゴミ屋敷という表現が、ビジネスの現場でどのように変化し、解釈されているかを知ることは、現代の住環境におけるリスク管理の実態を理解することに繋がります。資産としての建物と、そこに住む人間の脆弱な生活。そのせめぎ合いの中で、不動産関係者たちは言葉を慎重に選びながら、崩壊した住環境を再び社会の循環の中に戻そうと奮闘しています。隠語や婉曲表現は、現実から目を背けるためのものではなく、あまりにも過酷な現実を、社会的な枠組みの中で処理可能な形に変換するための、現場の知恵なのかもしれません。
不動産業界が使うゴミ屋敷の隠語と現実