ゴミ屋敷が進行し、居室の床が完全に物で埋め尽くされたとき、住人が最後に辿り着く寝場所の一つに浴槽があります。浴室という、本来は身体を清めるための場所が、なぜ眠るための場所に変わってしまうのでしょうか。そこには、極限状態に置かれた人間にしか理解し得ない、切実な理由と心理的メカニズムが隠されています。まず、物理的な理由として、浴室は多くのゴミ屋敷において、ゴミの侵食が最も遅い場所であることが挙げられます。水回りは最低限の使用頻度を維持しようとする本能が働き、居室が天井まで埋まっても、浴室への通路だけは辛うじて確保されていることが多いのです。そのため、部屋のどこにも横たわるスペースがなくなったとき、唯一の平らな面として、浴槽の底が選ばれます。また、浴槽は壁に囲まれているため、不安定に積み上げられた周囲のゴミが寝ている間に崩落してくる心配がありません。住人にとって、浴槽の中は外の世界の混乱から物理的に隔離された、安全な防空壕のような感覚をもたらします。心理学的な視点で見れば、狭い空間に身を縮めて収まることは、胎内回帰のような安心感を与えることもあります。しかし、この就寝環境は極めて危険です。浴室は湿気が多く、換気が悪いゴミ屋敷では、浴槽の中に敷いた布団はすぐに湿気を吸い、目に見えないほどのカビが短期間で大発生します。住人はそのカビの胞子を就寝中に吸い込み続け、慢性的な呼吸器疾患やアレルギーを発症するリスクにさらされます。また、硬い浴槽の中で不自然に体を曲げて眠ることは、血行を阻害し、筋肉や関節に多大な負担をかけます。それにもかかわらず、本人がそこを平気だと感じてしまうのは、感覚の完全な麻痺に他なりません。ゴミ屋敷でどこで寝るのかという問いが、浴室という答えに行き着いたとき、その人の生活は既に限界を超えています。私たちがこのような現場に介入する際、最も重視するのは、本人の自尊心を傷つけずに、再び居室で眠れる環境を整えることです。浴槽で眠るという歪んだ適応から、清潔なベッドで眠るという本来の充足感へ。その移行は、住人が自分を大切にする感覚を取り戻すための、最も重要なセラピーとなるのです。
浴槽を寝床に選ぶゴミ屋敷住人の心理